原田宿命/文・吉田稔美/画 架空社刊
2003年5月1日発行 B5判変型 64頁
定価(本体1900円+税)1995円
オールカラー 上製本 本文総ルビ付
絵本である。児童書である。だからといって、児童のみに向けてつくられた本とはいえない。文章を書いているのは、西洋舞踊史、ときにルネサンス期の舞踊の研究家・原田宿命。80歳を過ぎてなお、研究に講演に出版に奔走していたが、惜しまれつつ亡くなった。この人の本を読んでいると、世の中にはアカデミズムなどとは関係なく、もちろん大学や学会における勢力争いなどもしらず、あることがらに身も心も魅せられ、ひたすら没入していく研究者がいるものだと、つくづく思う。
2000年に刊行された著書「ルネサンス舞踊紀行」。その旅の収穫が、なんとも典雅な筆づかいでつづられて前記のような本になり、また本書のような目にも鮮やかな絵本になった。本書では、宮廷の踊りばかりではなく、エネルギッシュな跳躍と足の交差を特徴とする「ガボット」や、祭日などに野外で演じられたという「剣の踊り」など、民衆の踊りも熱心に紹介される。絵本であっても大人向けの著書であっても、原田宿命の文章には、踊りをめぐる身体的な愉悦性や高揚感がおのずとにじんでくる。もっと生きて旅をして、もっと本を書いてほしかった。吉田稔美の絵がじつに美しい。(日刊ゲンダイ2003年5月29日付書評より)